コヒーレンス(coherence)とは2つの信号間のある周波数における位相差の一貫性を表す量

Nです.今回はコヒーレンスが何を計算しているのかについて私なりの理解を紹介したいと思います.

最初に結論を言いますとタイトルにもあるようにコヒーレンスとは2つの信号間のある周波数における位相のそろい具合を複数トライアルの位相差の平均を計算することで定量化したものだと考えられます.

‘‘コヒーレンス”は日本語では‘‘一貫性”という意味ですが,その名のとおりに信号間の位相のずれが一貫して同じときにコヒーレンスは1に近くなり,位相差がバラバラなときに0に近くなります.

ここから下はこの結論を導くまでを説明したいと思います.

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定義

信号\(x(t)\)と\(y(t)\)があるとき,コヒーレンスは以下の式で定義されます.

\begin{align}
Coh_{xy}(w)
&:= \frac{|P_{xy}(w)|^2}{P_{xx}(w)P_{yy}(w)} \\
&= \frac{|E[\overline{X(w)}Y(w)]|^2}{E[|X(w)| ^2 ]|E[|Y(w)| ^2 ]|}
\end{align}

周波数\(w\)でのコヒーレンスは基本的にはクロススペクトル\( P_{xy}(w) \)の2乗を各信号 \(x\)と\(y\)のパワースペクトル\( P_{xx} (w) , P_{yy} (w) \)で規格化した値として定義されます.
\(X(w), Y(w)\)は\(x(t),y(t)\)をフーリエ変換したものです.

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ポイント:位相差の平均値の計算が位相のそろい具合を表す

コヒーレンスの本質は2つ目の式,\( \frac{|E[\overline{X(w)}Y(w)]|^2} {E[|X(w)|]|^2E[|Y(w)|]|^2} \)にあり,分子で \(x(t)\) をフーリエ変換した値 \(X(w)\), \(y(t)\) をフーリエ変換した値 \(Y(w)\) の掛け算(クロススペクトル)の期待値(平均)を計算しているところにあります.クロススペクトルは基本的に \(X(w) = | X(w) |e^{i \theta_X}\) , \(Y(w) = | Y(w) |e^{i \theta_Y}\)とすると

\begin{align}
P_{xy}(w) = \overline{X(w)}Y(w) = |X(w)||Y(w)| e^{i (\theta_Y – \theta_X)}
\end{align}

で表されます.このとき \(|X(w)||Y(w)|\) はある周波数での振幅の大きさの積,\( e^{i (\theta_Y – \theta_X)} \)は \(x\)と\(y\) のある周波数\(w\)における位相のずれ具合を表現しています.

位相差が常に同じ場合,コヒーレンスは1になる.

もし2つの信号\(x,y\)の位相差が常に同じ場合

\begin{align}
Coh_{xy}(w)
&= \frac{|E[\overline{X(w)}Y(w)]|^2} {E[|X(w)| ^2 ]|E[|Y(w)| ^2 ]|} \\
&= \frac{|E[ | X(w) |e^{-i \theta_X} \times | Y(w) |e^{i \theta_Y} ]|^2} { E[ | | X(w) |e^{i \theta_X} |^2|] E[ || Y(w) |e^{i \theta_Y} |^2]}\\
&= \frac{|E[ | X(w) || Y(w) |e^{i (\theta_Y – \theta_X) } ]|^2} { E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2]}
\end{align}

分子で期待値の計算を行うとき信号\(x,y\)の位相差が常に同じことから\(e^{i (\theta_Y – \theta_X)}\)は一定のため期待値の外に出せるので

\begin{align}
Coh_{xy}(w)
&= \frac{|E[ | X(w) || Y(w) |] e^{i (\theta_Y – \theta_X) } |^2} { E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2]}
\end{align}

となります.

また\( E[ | X(w) || Y(w) |] \)は常に正なので絶対値の外に出せます.

\begin{align}
Coh_{xy}(w)
&= \frac{(E[ | X(w) || Y(w) |] |e^{i (\theta_Y – \theta_X) } |)^2} { E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2]}\\
&= \frac{(E[ | X(w) || Y(w) |] \times 1 )^2} { E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2]}\\
&= \frac{(E[ | X(w) || Y(w) |])^2} { E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2]}
\end{align}

このとき,分子と分母が一致するのは\(|X(w)|=k|Y(w)|\),(\(k\)は定数)の時です.それ以外の時は分子が分母よりもすこし小さくなります(証明は考え中です.よかったら教えてください).

つまり,位相差と振幅が常に同じ場合はコヒーレンスが1になることがわかります.

平均の計算により位相差がそろっていない場合,分子がパワーの平均値の掛け算\( E[|X(w)|^2|] E[|Y(w)|^2] \)より小さくなる

位相差がそろっていない場合期待値の外に \(e^{i (\theta_Y – \theta_X)}\) を出すことができません.さらに位相のずれがトライアルごとに異なるので平均を計算する際に振幅が小さくなってしまいます.そのためコヒーレンスは0に近づきます.

注意点:もし平均を計算しなければコヒーレンスは常に1になってしまう(意味を持たない)

もし期待値を計算しなければ絶対値をとると\(|e^{i\theta}|=1\)より振幅成分のみが残るので

\begin{align}
Coh_{xy}(w)
&= \frac{|\overline{X(w)}Y(w)|^2}{|X(w)|^2|Y(w)|^2}\\
&= \frac{| | X(w) |e^{-i \theta_X} | Y(w) |e^{i \theta_Y} |^2}{| | X(w) |e^{i \theta_X} |^2| | Y(w) |e^{i \theta_Y} |^2}\\
&= \frac{|X(w)|^2|Y(w)|^2}{|X(w)|^2|Y(w)|^2}\\
&=1
\end{align}

となり,常に1となってしまうためコヒーレンスは意味を持たなくなってしまいます.
そのためコヒーレンスを計算するためには複数の時系列の組み合わせを用意する必要があります.

まとめ:コヒーレンスは信号間の位相差の一貫性を反映する指標である.

コメント

  1. せと より:

    >>つまり,位相差と振幅が常に同じ場合はコヒーレンスが1になることがわかります.

    コヒーレンスが1になるための条件②は,|X(ω)| = |Y(ω)|ではなく,|X(ω)| = 定数×|Y(ω)|ではないでしょうか.
    つまり,①位相差②振幅比が全トライアルで同じ場合にコヒーレンスが1になるかと思います.
    なので,コヒーレンスというのは,位相差と振幅比の,全トライアルを通しての一貫性というべきだと思います.

    水をV [L] 飲んだら,必ず3時間後にV/3 [L] おしっこが出る人がいたら,この二つの信号のコヒーレンスは1ということです.3時間後であることや1/3倍の量であることとは無関係に,ですね.

    • N より:

      コメントいただきありがとうございます.
      確かにその通りですね.
      本文修正いたします.
      ご指摘いただきありがとうございます.

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