メカ屋のための脳科学入門 脳をリバースエンジニアリングする
東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の高橋宏和准教授の書かれた本です.
どんな時に読む本か
- 脳科学の話題について広く,しかし具体的な事例をもとに知りたいという時
良かった点
- センサー(聴覚)とアクチュエーター(筋肉)についての記述がわかりやすい
- 紹介している話がなぜそういわれているのかについて説明する事例が多く紹介されている.
- 具体的な数字を多く書いている.
悪かった点
- 引用がついていない文章が少し多め.より深く知りたいときに次に何を調べるか自分で見つける必要がある.
- 具体的な数字の引用元が書いていないことが多い
個人的に興味が出た話題
基本的に文章は私の個人的な感想です.
- 錯聴による連続聴効果 p17-
入力が入る一次聴覚野,視覚野には感覚入力よりも出力先からの入力を担う軸索が多いことが知られている.つまり,感覚入力はかなり脳が次にどのような信号が来るかという期待を持っているかに大きく影響される.近年の人口ニューラルネットワークの生成モデルで行われているようなデノイジングが行われている可能性がある. - 筋肉の運動が持つ非線形性 p61-
ヒトはハードウェアとしてもうまくできていて,神経的なフィードバックがなくてもハードウェアとしてある程度目標値に状態を安定させるような力が発生する.ヒト運動制御について知るためには,良いハードに良いソフトをヒトが使っているということを意識することが必要だと思われる. - 複数の細胞の発火がガンマ帯域で同期する p124-
結局脳内情報処理において各神経細胞のダイナミクスが果たす役割はあるのだろうか,同期して動いているだけなら今の写像の近似である人口ニューラルネットワークでヒト情報処理について説明しきれるのではないか. - 脳による学習と脳内クロック p140-
学習終盤に神経活動が非同期化する.このことは脳が内部状態を持たない写像を学習するだけではないことを示唆する. - 聴覚野に視覚野を作る p143-
入力信号を変更することで脳内で学習されるネットワークの意味が変わる.このことは皮質情報処理があらかじめ決められたものではなく学習によって獲得されるものであることを示唆する.
どこまでが脳の学習におけるアーキテクチャ(学習の前提となるネットワーク構造)なのだろうか? - 自己組織化マップ構築のためのアルゴリズム p144-
勝者独り占め,協調関数,更新則によって似たような情報が近い場所に現れる自己組織化マップを構築することができる.自己組織化マップを作ることは脳内情報処理においてどの程度重要なのだろうか?
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