博士新卒1年目の時給を計算してみた

エッセイ
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はじめに

博士号は「足の裏の米粒」や「足の裏のご飯粒」等と表現され,その経済的価値の低さを揶揄されることがあります.
博士号の経済的な価値やいかに.
博士新卒1年目の時給を計算してみます.

本記事の主な目的は,私が自身の経済的な価値を把握することにあります.
例えば,私は10年前にとあるファミリーレストランでアルバイトとして働いていましたが,博士(工学)になって民間の研究職に就いたことでどの程度経済的な価値が高まったのか?
日本学術振興会 特別研究員(学振 DC)であった頃と比べて,どうなのか?
奨学金を借りてまで大学・大学院に行くことには,どれだけ経済的に合理性があるのか?
このような疑問に即答できるようになることを目指します.
高校生の頃に夢想した『博士号で稼ごう』戦略は果たして成立しているのか

職業間の経済的な価値を比較するために,時給により経済的な価値を定量化することを試みます.

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方法

被験者

被験者は健常成人男性1名(博士(工学),30歳)
本記事の著者.
2022年4月から日本の民間企業の研究所で働いています.
それ以前は,学振DCとして働いていました.

時給を計算する職業

学振DCの時給(推定値)と日本の民間企業総合職1年目の時給(実測値)を計算します.

時給の定義

ここで述べる時給とは,ある年(2022年であれば,2022年1月から2022年12月まで)の総収入(額面)を総労働時間で割った値と定義します.総収入には賞与を含み,総労働時間には残業時間を含みます.

学振DCの場合,総収入は一定(月額20万円)ですが,裁量労働制のため総労働時間が人によって異なります.私は自分の労働時間を記録していなかったので,推論による計算を行います.簡単のために,1週間のうち平均6日間は働いていたとし,1日の平均労働時間は10時間であったと仮定します.「中らずと雖も遠からず」だと思います.

民間企業総合職の場合,私は2022年4月から働き始めたので,2022年4月から2022年12月までの9か月の総収入と総労働時間に基づき時給を計算します.これらの値は会社が毎月発行していた給与明細書から取得されました.

結果

学振DCに関しては,毎月20万円の収入があるので,1年間の総収入は240万円(2.4×10^6 JPY)です.総労働時間の推定値は10時間かける365日の6/7より約3100時間(10x365x6/7 = 3.1×10^3 hour)となりました.したがって,240万円/3100時間(2.4×10^6/3.1×10^3=7.7×10^2 JPY/hour)より,時給約770円となりました

民間企業の総合職1年目に関しては,2022年4月から12月までの総収入は約370万円(3.7×10^6 JPY),総労働時間は約1300時間(1.3×10^3 hour)でした.
したがって,370万円/1300時間(3.7×10^6/1.3×10^3 = 2.8×10^3 JPY/hour)より,時給約2800円となりました

考察

博士(工学)と博士課程学生の経済的な価値

博士(工学)の日本企業における経済的な価値の初期値を時給で表すと約2800円であることがわかりました(N=1).
令和4年度日本の最低賃金の加重平均(何に対する加重かは不明)は,厚生労働省が発表するところによると,961円です.
改めて,10年前にファミリーレストランで最低賃金で働いていた頃と比べて,博士(工学)を取得した今の私の経済的な価値は何倍になったのでしょうか?
2800/961=2.91なので,約3倍です.
複利を用いて10年間で初期値を約3倍にするために必要な平均年間利回りは約11.5%です.
S&P500の直近10年間における平均リターンが約14.5%でしたから,S&P500に負けず劣らずの投資成績を出せているようです.

しかし,学振DCとして働いていた頃の時給の推定値は770円であり,全国の最低賃金の平均値を下回っていたことが明らかになりました.
令和4年度全国の最低賃金の最低値は853円(青森県,秋田県,愛媛県,高知県,佐賀県,長崎県,熊本県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県)であるため,全国の最低-最低賃金を大きく下回る結果となってしまいました.
本当に経済的な価値が低いのは博士ではなく博士課程学生なのかもしれません.博士課程学生は”学生”という名の付くことから誤解されることが多いのですが,その研究室の実務責任者であると言っても過言ではないことから,過小評価されている印象を否めません.

私は博士号を取るまでに900万円程度の奨学金負債を抱えることになりました.これが本当に割のよい投資であったかどうかについては議論が残ります.今後,勤続年数の増加や転職等により時給が上がる蓋然性は高いです.時給の推移を観察する必要があります.

時給という特徴量の有用性(蛇足かも)

ある資格や職業,個人等の経済的な価値を時給という特徴量に落とし込むことにより,それぞれの経済的価値の多寡を比較することができるのみならず,行動決定に役立ちます.
例えば,私の経済的な価値は時給約2800円なので,1時間あたり2800円以上の浪費は身の丈を超えます.

また,潜在する最大年収を推定することが可能になります.
人々に与えられた時間は平等であり,1年間は365日で1日は24時間なので,1年間は8760時間です.
したがって,時給に8760をかけた値がその資格や職業,個人に潜在する最大年収となります.
私の場合,時給約2800円でしたので,2800*8760=24528000より,約2450万円が年収としての原理的な最大値となります.
だからなんやねんという話ですが,これも価値判断や行動決定に役立つ可能性があります.
例えば,どれだけ頑張って残業してもこの最大値を超えることはできないことは明らかです.
「高々この程度のお金を稼ぐために体壊してまで働くのは馬鹿らしい」と感じれば休みやすくなりますし,「これだけ稼げるのであれば十分だ」と思うならば思い切って残業時間を増やすことができます.
最大値以上の年収を望むのであれば,時給を上げる必要があることは明らかなので,残業時間を減らしてでもスキルアップや転職活動に励むべきでしょう.

実際は睡眠や休日等,経済的な価値を生み出さない時間が存在するため,実質的な最大値はこれを大きく下回りますが例外もあります.
不労所得のみがその時給を構成していた場合です.
“不労所得が生み出す時給”やそれが全体に占める割合を標的に人生設計するのもよいかもしれません.

おわりに

2022年も終わったので,経済状況を振り返ってみたく自分の時給を計算してみたところ,『博士号で稼ごう』戦略は悪くない可能性が示唆されました.博士といってもそのキャリアは非常に多様なので,十把一絡げに議論することはできませんけど.対して,学振DCの時給推定値が全国の最低-最低賃金を下回っていたことには驚きました.全国の最低賃金も年々上昇しているんですね.学振DCは,副業や企業給付奨学金との併用を認めたりと,近年改善傾向にはあることは確かなので,皆さん(文科省や日本学術振興会の方々も含めて)腐らずに頑張ってほしいです.

私としては,博士ないし研究者の経済的価値という点を今後とも掘り下げていきたいです.医学部に優秀な人材が集まるのは医者が儲かるからでしょう.科学技術の更なる発展のためにも,「博士(少なくとも工学)は儲かるぞ」と優秀な人材を学問の道に誘いたいわけですが,奨学金問題やポスドク問題,理研の雇い止め問題等から垣間見えるように,困難が多いことも事実なので難しいですね.「博士になったおかげでかわいい彼女/かっこいい彼氏ができました」とか「博士になったおかげで億万長者になれました」みたいな話があちらこちらから出てきて,「博士っていいなあ」と漠然と思う人が増えてこないといけないと思います(本当か?).実際問題としては,論文を書いてもお金にならない(むしろ払う)という仕組みに根本的な問題があると考えているので,ここを変えることができれば大きいが果たして.

以上.
腐らずに頑張っていきましょう!!

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